サヤについてきちんと意識していますか?

イメージ:見出し

この記事はフジトミ証券所属のCFP(1級FP技能士)の岩井が作成しました。

皆さんはどんなことに注目してトレードしていますか?

商品先物取引をおこなっているほとんどの方は、ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析を用いてトレードしているのではないでしょうか。国内商品先物取引で出来高の多い金先物や原油先物は、株式や債券市場の影響を受けやすいので、値動きを理解する上で他市場の動向を把握することも重要になってきますね。

ベテランのトレーダーであっても、意外と盲点になっているのが「サヤ」の存在です。
先物取引には、限月があり各限月は独立して動いています。流動性の低い銘柄では特定の限月だけが大きく変動することがありますが、基本的には、限月間での裁定取引が有効になるため、限月間での乖離は、時間と共に平準化されます。

取引されている方はご存じだとは思いますが、限月には、色々な呼び方が存在します。一番期限の短い限月から1番限、2番限月、3番・・・という表現や、一番期限が短い限月を期近と呼び、一番期限が長い限月を期先と呼んだりもします。また、一般的に出来高の多い限月のことを中心限月と呼んでいます。

次の表は、2023年1月20日の相場表をコピーしたものです。

大坂金

イメージ:相場表金

限月毎の現在値を比較すると1番限よりも6番限の方が安くなっていますね。

ドバイ原油

イメージ:相場表原油

現在原油は、連続15限月制を採用しています。各限月の帳入値を比較すると期限の長い限月ほど価格が安くなっていますね。

各限月の価格をグラフにすると次のようになります。

原油の限月カーブ(2023年1月19日時点)

イメージ:原油の限月カーブ(2023年1月19日時点)

15ある限月の内、最も安いのは14番限(2024年2月)の57,050円、最も高いのは1番限(2023年1月)の65,300でした。両者の間には8,250円の価格差があります。

一年前はどうだったでしょうか。

原油の限月カーブ(2022年1月19日時点)

イメージ:原油の限月カーブ(2022年1月19日時点)

15ある限月の内、最も安いのは15番限(2023年3月)の54,190円、最も高いのは1番限(2022年2月)の61,820円でした。両者の間には7,630円の価格差があります。

現在の原油先物市場のように期限の長い限月の方が安い状態のことを専門用語で「バックワーデーション(日本では逆ザヤとも言う)」と呼んでいます。逆に期限の長い限月のほうが高い状態のことを「コンタンゴ(日本では順ザヤとも言う)」と呼んでいます。

日本の商品先物市場は、6番限が中心限月になることが多いため、認識されにくいですが、基本的に先物市場の価格は、現物市場に準じて変動しているため、現物市場にもっとも近い1番限月が他の限月をけん引する形で動いています。

OPECで協調減産が行われ、それが需給バランスに影響を及ぼしているというニュースは現在の状況を伝えており、将来のことを伝えている訳ではありません。原油が足りないのは今なので、期近(期限の短い)の限月が高くなる訳です。

価格への影響について

次のグラフは、ドバイ原油6番限のつなぎ足です。TradingViewでシンボルの追加から「TCL1!」を選ぶと次のチャートが表示されます。

ドバイ原油(6番限つなぎ足)

イメージ:ドバイ原油(6番限つなぎ足)

(出所:TradingViewによるドバイ原油チャート

通常、メディアなどで報道されている先物価格のチャートは、6番限や先限などの中心限月をつなげた「つなぎ足」と呼ばれるものです。上に表示しているチャートは、ドバイ原油の中心限月である6番限をつなげたものです。
そして、次のチャートが2023年1月限の値動きを表したものです。

ドバイ原油(2023年1月限)

イメージ:ドバイ原油(2023年1月限)

(出所:TradingViewによるドバイ原油チャート

同じような形をしていますが、数字に注目すると違いが見えてきます。

2022年1月19日から2023年1月19日までの1年間でどれだけ価格が変化したのか比べてみましょう。

6番限の価格変化

59,020円 ⇒ 62,190円(+3,170円

2023年1月限の価格変化

54,190円 ⇒ 64,140円(+9,950円

6番限の値上がり幅は3,170円でしたが、2023年1月限の値上がり幅は9,950円もあり、両者の間で6,780もの開きがありました。この差は逆ザヤ(バックワーデーション)が生み出したものです。

二つの違いが分かりやすいようにグラフを重ねると次のようになります。

ドバイ原油(6番限つなぎ足と2023年1月限)

イメージ:ドバイ原油(6番限つなぎ足と2023年1月限)

(出所:TradingViewによるドバイ原油チャート

青い線が2023年1月限、青い線が6番限つなぎ足です。2023年1月が6番限になる8月は価格が重なっていますが、それ以前を見ると青い線は赤い線を下回っており、それ以降は青い線の方が赤い線よりも高くなっています。これは、逆ザヤ(バックワーデーション)がもたらした効果です。

因みに、ドバイ原油相場はいつもバックワーデーションになっている訳ではありません。その時々の時勢によって順ザヤ(コンタンゴ)と逆ザヤ(バックワーデーション)を繰り返しています。今のようなバックワーデーションになったのは、2021年1月以降の現象で、2020年3月頃から2020年12月までは順ザヤ(コンタンゴ)で推移していました。

サヤによる相場変動を鑑みると、逆ザヤ(バックワーデーション)の時は買い方にアドバンテージを与え、順ザヤ(コンタンゴ)の時には売り方にアドバンテージを与えます。これは、原油相場に限った話ではありません。

今回は、サヤがトレードに与える影響について、お伝えしました。サヤが価格に与えている影響は、中心限月や先限のつなぎ足だけをみていてもわかりません。トレードする際には、相場表を確認して今のサヤがどうなっているのか、きちんと把握しておくことをお勧めします。

このコメントは編集者の個人的な見解であり、内容を保証するものではありません。また、売買を推奨するものでもありません。ご了承ください。

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